つぐ嫁ブログ

ハイセンシティブパーソンの主婦が、夫の影響で始めた趣味嗜好を散らかす雑多ブログです

読書レポ『豆の上で眠る』何年も拭えない姉への違和感の正体とは【ネタバレあり!】

※ネタバレが含まれます、ご注意ください

 

『豆の上で眠る』

 

イヤミスの女王 湊かなえさんの作品です。

 

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アンデルセン童話「えんどうまめの上にねたおひめさま」

この童話が『豆の上で眠る』のタイトルの由来です。

 

妃となる女性を探している王子様が

ふさわしい姫かどうかを見極めるため

ベッドのシーツ下に小さな豆を置いて寝かせ、

気づくかどうか試したというお話。

 

小さな違和感。

何がとは分からないけれど、シーツ越しに

ごりごりと食い込むような背中の感触。

 

姉へと抱く、結衣子のその違和感の正体とは?

 

大好きなお姉ちゃん

 

読書好きで物静かな姉、万佑子。

対照的な主人公、結衣子。

 

結衣子は子供の割に少し低い声で読み聞かせをしてくれる

万佑子のことが大好きだった。

 

母は万佑子の方が大切だったのだろうが、

それでも疎むことなく自分なりに母の期待に応えようと努力した。

 

それに対し平等に甘えさせてくれる祖母は

2人にそれぞれお泊まりセットを用意してくれた。

 

プレゼントも、2人同じバッグとローラースケートをもらった。

 

しかしこのプレゼントが悲劇を生んでしまう。

 

乗り気でない万佑子をローラースケートに誘ったことで

顔に、それも右目の横に傷を負わせてしまう。

 

消えないのではと思うほど、深い傷を。

 

消えた姉

 

当時結衣子たちが夢中になっていたシェルター作り。

 

身体の弱い万佑子も結衣子とともにシェルター作りに参加していた。

 

近所の商店でダンボールをもらい、

ガムテープを使い、子供にできる精一杯のことをして。

 

自分には思いつかないアイデアを思いつく万佑子の力を借り

2人の特別なシェルターは完成した。

 

友達も感心するほどの出来栄えが嬉しくて、

何より自分たちのシェルターを勝手に使われたくなくて、

疲れを見せ帰りたがる万佑子を1人で帰し、残って遊ぶほどだった。

 

「あんまり遅くなっちゃダメだよ。」

 

それが万佑子との最後の会話となる。

 

その日結衣子が帰ると、先に戻ったはずの万佑子の姿はなかった。

 

血相を変えて探す母。

軽口を叩きながらも緊張している父。

身内にまで被害が及ぶのではと興奮する祖母。

一緒になって探してくれる近所の人たち。

 

目撃情報もあった。

落し物に万佑子の私物も見つかった。

 

しかし、万佑子の姿はどこにも見つからなかった。

 

母の狂気

 

母は万佑子が姿を消してからというもの

誘拐されたのだと決めつけ、

周りからの冷ややかな目も気にすることなく

狂気的ともいえるほど血眼になって万佑子探しを始めた。

 

結衣子にまで届くほど良からぬ噂が立つと、

一度は自重したように見えた母だったが

彼女の狂気は消えるどころか燃えたっていた。

 

結衣子を使えばいい。

 

寂しさを紛らわすように飼い始めた猫、ブランカ。

どことなく万佑子に似ている顔立ちの小さな白猫。

 

母は幾度となくブランカを閉じ込め、幼い結衣子に

「いなくなったの」と探しに行かせた。

 

実際は猫探しという名の万佑子探しだったのだが。

 

しかし何度も通用する手ではない。

犯人だと疑うのかと怒鳴られ、追い返され、恐ろしい目にもあった。

 

ブランカではなく、万佑子を捜して欲しかったのか?

母を問い詰めるもあっさりとそうよ、と白状される。

 

猫探しを装い協力していた結衣子だったが、

度がすぎる行動は友人からのいじめと繋がってしまった。

 

戻ってきた姉への違和感

 

失踪から2年。

 

神社の鳥居の下で女の子が保護される。

 

慌てて向かった両親からの報告は

万佑子であったこと、

しかし記憶を失っており病院にいることであった。

 

ようやく面会できた結衣子は会うなり違和感を覚える。

知らない女の子のような。

 

それは自宅へ戻ってきてからも変わらず

むしろ違和感は大きくなるばかり。

 

心の拠り所でもあったブランカも、

猫アレルギーだということで手放すはめになった。

 

疑いは隠せるものでもなく、結衣子は幾度となく

万佑子にしか分からない質問でカマをかけていた。

 

祖母の家の近所の白バラ堂のケーキ、

ちゃんとチーズケーキを選ぶのか?

 

読み聞かせをしてもらうとき、自分の好きな本
「えんどうまめの上にねたおひめさま」をちゃんと選んでくれるのか?

 

商店のおばさんがいつもくれるオマケは何味か答えられるか?

 

いつも正しい答えが返ってくるが 

あの子の目の横には、傷跡はなかった。

 

母の言う通り、万佑子の右目尻の傷は成長とともに消えたのか?

 

お姉ちゃんと万佑子ちゃん

 

大学生になって2年目の夏。

 

母の入院を聞き帰省する結衣子。

 

あの頃から抱く姉への違和感は消えないまま。

 

駅に着き、コーヒーショップから姉を見つけると

隣には友人らしき女性を見つける。

 

思わず駆け寄ろうとしたが貧血で倒れてしまい

救護室で目を覚ますと姉の姿は消えていた。

 

右目尻に傷跡のある、隣にいた女性も一緒に。

 

実家に戻り、荷物を開け思い出にひたる結衣子。

帰宅した父親と言葉を交わし、シャワーへ向かった父の携帯を盗み見る。

 

「遥と一緒にいるところ、見られたかも」

 

シャワーを上がり携帯を探す父を知らんふりし自室に戻る結衣子。

 

しばらくすると騒がしい足音が聞こえ、

血相を変えて家に飛び込み自分の名前を呼ぶ姉の姿を見た。

 

どうしたんだと驚く父に食ってかかる姉。

 

結衣子が手首を切ったと父の携帯メールで

姉をおびき寄せたのは、他でもない結衣子だった。

 

こうでもしないとその人を連れて戻ってこなかっただろうと

吐き捨てる結衣子。

 

額に汗する姉の後ろにいるのは駅で見たあの女性だった。

 

姉から父へのメールで遥と呼ばれていた、

右目尻に傷跡のある女性。

 

「万佑子ちゃんなんでしょ」

 

結衣子はこれまで決して姉を「万佑子ちゃん」と呼ばなかった。

 

万佑子ちゃんではないという違和感が芽生えたあの日から

目の前にいる姉は「お姉ちゃん」だったのだ。

 

隠されていた真相

 

姉である「万佑子」と

「遥」と呼ばれるその女性の告白は次の通りだった。

 

事件には続きがあった。

 

行方不明事件の3年8ヶ月後

犯人を名乗る女性が自首をする。

 

岸田弘恵と名乗るその女性は

自分が万佑子を誘拐したと自供した。

母親になりたかったのだと。

 

結衣子たちの父親のかつての同級生であり、

密かに想いを寄せていた弘恵は

当時勤務していた産婦人科で父親と再開する。

 

自分に気づかない彼の姿と幸せそうな家族に

彼女の心は荒み、彼の子供をものにしたいと思い始める。

 

しかし一度は諦め、けじめのために退職までした弘恵は

偶然にも8年後万佑子と出会ってしまい、

今度こそはと連れ帰ってしまう。

 

自分の子供だと洗脳し、2年間ともに生活をしたが

日に日に実の母の顔に似てくる万佑子に耐えられず、

記憶喪失になったと嘘をつくよう伝え万佑子を手放すこととした、と。

 

彼女たちの告白に結衣子は納得せず

かつでDNA検査までして調べた両親と万佑子の

親子関係は間違いないとしならがも、

しかし失踪前後の万佑子は同一人物なのかと引き下がらない。

 

諦めた万佑子からさらなる真実が告白される。

 

万佑子はもともと「遥」として弘恵の元で育つ。

 

小学生の頃母親から出生後の取り違えを打ち明けられ

本当の名前である万佑子を知らされる。

 

そんなとき、「万佑子」として結衣子と暮らしていた

本ものの遥が一緒に暮らし始めたことで

自分から遥に移りゆく母の愛情に気づく。

 

本ものの母親の元へいきたいという気持ちで

母の提案を飲み、記憶喪失を装い

産みの親の元へ、つまり姉として結衣子の元へやってきたのだった。

 

疑う結衣子に気付きながら、遥と密に連絡を取り思い出を共有し

自分は万佑子であると存在を揺るがないものにしていった。

 

欲しかった答えとは

 

結衣子の最後の質問により

父親もこのことを知っていたという事実、

遥の母親は弘恵ではなく弘恵の姉 奈美子であり

弘恵は他でもない奈美子のために子の取り替え起こしたことを知る。

 

身体の弱い姉に元気な子供を与えたかったという

なんとも身勝手な理由を。

 

そして奈美子の、実の子をただ一目見たいという欲望が滾り

あの失踪事件につながる誘拐に至ってしまったということを。

 

本ものの万佑子とは何か問う万佑子。

 

行方不明になる前の万佑子のことだと返す結衣子に質問は続く。

 

「じゃあ私は誰なの?」

 

戻ってきた万佑子は会いたいと願ったあの頃の万佑子ではない。

幼い時をともにした遥は血を分けた姉ではなく万佑子でもない。

 

「何年経っても、この先何十年経っても。

 その子と過ごした年月よりも、私と過ごした年月の方が長くなっても、

 あんたにとって万佑子ちゃんは、私じゃないのね」

 

万佑子の言葉も遥の言葉も結衣子には理解ができず、

1人真実を隠されていた自分こそ本ものの家族ではないと思い始める。

 

「岸田弘恵に会って訊きたいことがあるんです」

 

結衣子の姿は交番にあった。

 

弘恵でなくてもいい。

誰でもいいから、本ものとは何なのか、教えて欲しかったから。

 

シーツ越しの豆のように背中に感じる違和感の正体は何なのか、

本ものしか気付くことができないその正体とは。

 

感想

 

窓に流れる雨粒のような一冊でした。

 

気づいたらポツポツと降ってきて

いつの間にか濡れている窓。

降り止んでも雨粒が線になって流れ落ち

乾いても跡になって残るような、そんな印象です。

 

イヤミスの女王と名高い湊かなえさんらしい

喉に張り付くような後味の悪さと繊細な描写、

最後に次々と暴かれる真実。

 

結局、答えは誰にも分からないのではないか。

 

頭から離れない、目を反らせない、

流れるように頭に入ってくる言葉たちはさすがの一言です。

 

 

新潮文庫 湊かなえ